岸田政権は防衛費の大幅増額を決定した。2023年度から5年間で約43兆円の増額、2023年度の防衛予算は前年度より1兆4000億円余り多い6兆8219億円となる見通しで、いずれも過去最大の増額幅となる。
「戦後レジームからの脱却」を唱えた、あの親米保守政治家の安倍元首相さえなし得なかった防衛費の大幅増額である。一体、何が起きたのだろうか?
我が国を取り巻く厳しい国際環境を考えると、防衛費の増額に反対するつもりはないし、むしろ当然だろうとは思う。しかし、今回の岸田政権のやり方には賛成できない。
その理由は、岸田首相の国家理念がはっきりしないからだ。おそらく岸田首相に防衛費大幅増額を促した直接的要因は、ロシアによるウクライナ侵攻だろう。ロシアに対する早急な経済制裁、ウクライナへの積極的物資支援等、岸田首相のいっぽん調子な行動を振り返ると、岸田首相は明らかにウクライナ危機に対して、あまりにも過剰に反応したことがわかる。
そのことが今回の、国民がびっくりするような防衛費の大幅増額に繋がった、そう考えて少しもおかしくはないはずである。そして、びっくりしたのは国民だけではない。自民党の中にも、岸田首相の唐突な大幅増額表明に疑問を持った議員も多い。
なぜ唐突な大幅増額なのか、に対する岸田首相の説明は、少しも信念の感じられない一般論に終始したおざなりなものでしかなく、とても国民を納得させるものではない。
日本をどこに向かわせようとしているのか、岸田首相の説明からは全く見当が立たないのだ。例えば「安倍元首相は「戦後レジームからの脱却」を唱えたが、道半ばで実現できなかった、だから安倍氏の跡を継いで、私の政権で実現したい、防衛費大幅増額は、そのための第一歩となる」とでも言えば、多少は理解できる。
しかし、それに類いするような言葉は一切聞かれない。つまり岸田首相には、そもそも明確な国家理念がないのだ。これは極めて重大である。そして言わずもがな、国家理念なき国防は非常に危険である。
自民党は、戦後一貫して、外交も安全保障政策も対米従属を基本として政治を司ってきた。その延長線上に岸田政権の防衛費大幅増額があると考えると、その魂が、真の国防の理念からは程遠いところにあることは明らかだろう。国防の意味を理解しない商人がいくら大金をはたいて大量の武器を購入したからといって、さして役に立たないだろうくらいのことは誰でも知っている。
やるべきことははっきりしている。対米従属をやめること。米国と対等に渡り合って自立した主権国家になること。それで初めて日本は真の国防政策を独自で構築できるのだ。米国の属国から脱し、この先中国の属国にならないための確実な第一歩である。
そして伊藤貫が提唱する「自主的核抑止力」を日本がもてば、国防費を大幅に増やさなくても、我が国の安全は保障されるのである。
伊藤貫の「自主的核抑止力」
〇 小規模で安価な、必要最小限度の核抑止力
〇 潜水艦をベースとする核弾頭付き巡航ミサイルを200〜300基配備
〇 核弾頭付き巡航ミサイル200〜300基とそれを搭載する潜水艦約30隻を建造し運用するために必要な軍事予算は1兆円以下 (伊藤貫著『中国の核戦力に日本は屈服する』より)