異様で不気味な政治風景
衆議院選挙が済んで各党の議席数に目を凝らすと、改めてその異様さに驚かざるを得ない。ひとつには、自民党は大幅(30以上)に議席数を減らすだろうとのマスコミの予想に反して、わずか15減にとどまったこと。
ふたつめは、維新の会が11議席から41議席へと約4倍に増えたこと。さらに言うと、公明党が3議席増やして32議席となり、自民党と合わせた数は293議席で、これは政権与党としては絶対的安定多数である。
この数字群を見ていると、実に異様な光景に気付く。日本が衰退していった平成30年の間、政権を担ったのは自民党政権(99年から自公政権)だ。一時、民主党政権が成立したが、僅か3年で自公連立に敗北した。
つまり、バブル経済崩壊後、日本経済は成長をやめてデフレスパイラルへ陥り、現在に至るまで衰退し続ける国家へと導いた責任は自公連立政権にあると言うことだ。この事実は各種データを見てもはっきりしていて疑いようがない。
これだけでも自公に政権を担う資格はないはずなのに、多くの有権者が彼らに票を入れたのである。しかも絶対的安定多数という名誉まで与えて。
これは何を意味するかと言うと、国民は自公連立政権の経済政策(直近ではアベノミクス)を信任したということだ。平成の御世を失われた30年と呼ばしめ、経済を停滞させ多くの国民を貧困化させた張本人達に再び政権を負託したのである。
国家の衰退は経済だけに止まらない。安倍政権で顕著になった政治腐敗が加わる。行政組織にあってはならない公文書の捏造、隠蔽、破棄。
経済を衰退させ政治を腐敗させた自公政権を国民は容認して選択し信任した。常識では考えられない異様な心理だが、さらに不気味な要素が浮かび上がってくる。維新の会の躍進だ。
維新の会の生みの親は橋下徹だ。彼の経済理念は米国由来の新自由主義経済である。市場原理主義経済。とにかく経済に政治的規制をかけないで、民間の自由な競争原理に任せる。徹底した合理主義に基づいた競争社会こそが経済と社会を成長に導くとする思想。別名、強欲資本主義経済。
これが橋下徹の思想であり信念だ。生みの親の思想は、維新の会の経済政策にそのまま反映されている。維新の会が唱える身を切る改革もそのひとつだ。公務員の給与をカットして財源を生み出すためには、まず政治家が率先して歳費を減額する必要がある。これが身を切る改革の中身だ。
行政サービスを縮小させることで、税金の支出を抑える。それで財政健全化を図る。大まかに捉えると、これが維新の会の政治哲学である。それを10年間、発祥の地大阪で実践した結果どうなったか。
大阪の経済は成長せず、定額給付金の支給は他の自治体より大幅に遅れ、新型コロナ禍で医療体制はパンクし、他自治体に比べ多くの死亡者をだしてしまった。これが行政サービスを縮小させた結果の答えである。
ところが維新の会は大阪で人気がある。その秘密が議員報酬カットにあるのは確かだろう。身を切る改革を自ら実践してみせる。これが有権者に受けるのだろう。しかし、これは長い目で見ると大きな落とし穴になりかねない。
議員報酬のカットは、資金の要る議員にとっては辛い。選挙を含め政治には金がかかるからだ。勢い違法な金銭に手が伸びやすくなる。下地幹郎がそれでやられた。カジノ汚職事件の関連で100万円を受け取ったのだ。昨年1月、維新の会は下地氏を除名処分した。
下地氏の件は氷山の一角に過ぎず、おそらく似たような事件が維新の会所属議員達から次々と出てきそうな気がする。職業を問わず、お金というものは誰にとっても潤沢にあるに越したことはないのだ。そう考えると維新の会のカット政策は経済を成長させるどころか、衰退させるだけであり、社会を疲弊させるだけだ。
その真逆の方法として、社会のあらゆる層に資金を供給すれば、需要が生まれ消費は活発になり投資も活性化する。経済は順当に回り始め成長へと向かい、人々は豊かになる。
行政サービスにも資金が回されて職員も増え、社会のあらゆる層がきめ細かい行政サービスの恩恵に浴することができるようになる。政府が資金創出の権利を行使して、各自治体、国民に資金を潤沢に供給すれば、これらのことは可能なのだ。これを政策に盛り込んだのが「れいわ新選組」である。
維新の会の緊縮策は政界の最右翼に位置する。それに真っ向から対立するのが「れいわ新選組」の積極的財政出動だ。緊縮策は人を殺す政策であり、積極的財政出動は人を生かす政策だと言える。
さて、もう一度議席数を見てみよう。
自民党:261
公明党:32 与党:293
日本維新の会:41
異様で不気味な政治風景である。日本経済を衰退させ政治を腐敗させた自公政権293議席。緊縮財政策の最右翼日本維新の会41議席。3党を合わせると334議席。
自民党と公明党と日本維新の会。この3党は日本の経済を停滞させ人心を腐敗させる元凶だ。しかし、多くの国民がこの3党に票を入れた。健全な精神では考えられないような心理が働いた結果だ。低い投票率(55.93%)の問題もあるが、3党に票を投じた人々が3党の政策と実績を分析して下した結論だとすれば、我々は実に異様で不気味な政治風景の中で、当分の間生きていかなければならないことになる。
この不気味さは、おそらく後戻りが効かないレベルにまで達したのではないだろうか。この圧倒的悪魔に「れいわ新選組」が潰されないことだけを祈る。