沖縄よ! 群星むりぶし日記

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「木原事件」の幕引きは日本の民主主義の未熟性を固定化させるだけ

木原誠二官房副長官は、2006年4月10日に起きた変死事件と直接に関係してはいない。木原氏は変死事件とは無関係である。遺体で発見された安田種雄の妻・安田郁子(X子)と出会うまでは。

2008年の春頃、遊び好きの木原氏は、銀座のクラブでホステスとして働いていたX子と出会う。偶然のこの出会いが、後の木原氏の運命を大きく狂わすことになろうとは誰が想像できただろうか。

夫の変死から2年しか経っていないというのに、X子はクラブ一番の売れっ子になっていたという。写真を見ると確かに美人である。彼女を見て生唾を飲んだであろう木原氏は彼女にのめり込んでいく。しかし、1年後の2009年、木原氏は衆院選で落選。民主党政権の約3年間、冷や飯を食うことになる。そして2012年12月、衆院選で二度目の当選を果たす。(第二次安倍政権誕生)

出会いから6年後の2014年10月、X子が木原氏の娘を出産。木原氏にはもう一人、やはり銀座のクラブでホステスをしていたA子という愛人がいて、彼女との間にも娘を授かっているが、X子が5ヶ月早く出産したという理由で、X子と結婚・入籍している。X子は名実ともに木原郁子になったのである。結婚する前のちょっとしたエピソードがある。文藝春秋9月号から引用する。

「この頃、経団連に勤務していた、実家が料亭のお嬢様と婚約。ホテルでの披露宴の招待状まで発送しました。ところが、当時付き合っていたX子さんが『絶対に別れない』と逆上。婚約は破棄されました」

X子の木原氏に対する思いが、いかに強烈だったかを物語るエピソードである。A子の言葉を借りると「早い者順だよね。本妻は木原さんのことが猟奇的に好きだから.......」

人並外れた女好きの木原氏の女性遍歴について、文藝春秋9月号は『木原誠二官房副長官カサノバ伝説』というタイトル名で詳しく書いているので、興味のある方は購読されてはいかがだろうか。

X子と結婚した後の木原氏は政治家として、次第に頭角を現してくる。2015年外務副大臣、2017年自民党政調副会長兼事務局長に就任。しかし、順調に経歴を積み重ねていた矢先の2018年4月、警視庁が安田種雄さん不審死事件の再捜査を開始したのだ。当時、自殺として封印されていたファイルが息を吹き返したのである。

30名を超える捜査員を投入した本格的な大捜査が始まった。当時の初動捜査の誤りが明らかになり、自殺ではなく他殺の疑いが濃厚になった。当然、事件の当事者の一人である木原郁子(X子)の身の回りは忙しくなる。問題は、この時、夫である木原氏は、妻の前夫の死について、どの程度の知識があったか、つまり、2008年の出会いから2018年に至るまでの10年間、木原誠二と郁子(X子)との間で、安田種雄の死をめぐっていかなる会話が交わされてきたか、である。木原氏は、10年間、ずっと自殺と信じてきたのか、それとも多少の不信感を抱いたことがあったのか、あるいは妻の口から真相を打ち明けられていたのかどうか。もっとも気になるところだが、これに関する情報はまだ入手していない。

しかし、仮に木原氏が安田種雄は自殺したんだと、ずっと信じてきたとしよう。そうすると、10月上旬から始まった妻(X子)に対する佐藤誠警部補の事情聴取は青天の霹靂だったはずである。脳天を拳銃で打ち抜かれるほどの衝撃を受けたに違いない。妻(X子)に対する不信感がめらめらと燃えあがったに違いないのだ。離婚を考えても少しもおかしくはない大事件である。事実、捜査が始まってから、二階俊博幹事長は「X子と別れろ」と諌めている。

しかし、木原氏の反応は違った。妻(X子)を擁護する行動に出たのだ。第二子が生まれたばかり、という事情を考えると、この時の木原氏の苦悩は理解できないでもない。それでも木原氏が取るべき選択肢は限定される。

1)妻(X子)と離婚して、元々関係ないこの事件から綺麗さっぱり身をひく

2)愛する妻(X子)を擁護し家族を守るために徹底的に戦う

木原氏は2番目を選択した。このため政治家が関わることで事件はより複雑化し深刻化してしまった。なぜなら政治家が関わることで捜査打ち切りに政治が関与したかどうか、という大問題が生じるからである。だから週刊文春がこの事件を「木原事件」と称しているのには立派な理由があるのだ。

再捜査開始から半年後の10月9日、木原氏は自民党情報調査局長に就任している。佐藤誠警部補が木原郁子(X子)を任意事情聴取をしている頃である。木原氏が捜査に介入したかどうかを裏付けるドライブレコーダーを警察は回収している。この件に関する記事を週刊文春8月3日 号から引用する。

< 18年10月以降、X子さんは取り調べを終えると警視庁本部からタクシーに乗り、帰宅。その際、木原氏と落ち合い、車内で言葉を交わすことがあった。捜査員は車内のドライブレコーダーを回収し、つぶさに分析した。ある日、佐藤氏は捜査員に呼び出された。「誠ちゃん。ちょっとこっち来て、見てみ」

再生されたのは、20分以上に及ぶ動画。タクシーの後部座席に座った木原氏は、沈痛な面持ちのX子さんの手を何度も握り、言葉を投げかける。「大丈夫だよ。俺がなんとかするから」「........... 」「俺が手を回しておいたから心配すんな。刑事の話には乗るなよ。これは絶対言っちゃ駄目だぞ。それは罠なんだから」

この会話から木原氏は妻(X子)から元夫の死の真相について、すでに聞き知っていた、と推測するのは的外れだろうか。ぼくはそうは思わない。木原氏の言葉からは、安田種雄の死の真相を知っていたと考える方が自然である。そして恐らく木原郁子(X子)は父親・舩本賢二(Z)が事件の日に現場に居合わせたことも話したはずである。だから木原氏は、当時警察官だった義父が事件に関わった問題の大きさを認識し、捜査を中止させるべく動いたのだ。

そして10月下旬、佐藤誠警部補は上司である管理官から事情聴取の終了を告げられる。この時の木原氏の肩書きは自民党情報調査局長である。しかし情報調査局長の権限はどの程度のものかネットをいくら検索しても出てこない。だから木原氏が強権を持って直接捜査を打ち切らせたとは断言できない。しかし、より力のある政治家に窮状を訴えたことは十分に考えられる。6年目に入った安倍政権の中枢部も、木原氏の妻(X子)が事情聴取を受け、自宅にも家宅捜査が入った状況を知っていたはずだ。ことがこれ以上大きくなると政権維持に支障をきたす。その前に捜査を止めさせろ。木原氏の窮状を聞きつけた大物政治家(菅官房長官?)から警察のトップに捜査中止の指令が下る。こう推測して初めて木原氏の「俺が手を回しておいたから心配すんな」という言葉の真意が理解できる。

安倍政権は2017年にもレイプ犯の逮捕を寸前に取りやめさせた前科がある。その時のレイプ犯は安倍政権中枢と親密な関係を築いていたTBSの記者だった。逮捕中止命令を下したのは当時警視庁刑事部長だった中村格である。刑事部長が独断で中止命令を下せるはずがない。政権中枢からの指令がなければ、警察といえども勝手には動けないのだ。

すでに前科のある安倍政権が警察と連携して木原事件の揉み消しに動いたとしても少しも不思議ではない。この政権は自己保身のためなら国民主権から逸脱してでも、権力を行使することに少しも躊躇わないのだ。こうして2018年、安倍政権の時に木原事件の再捜査は打ち切られた。

ところがそれから5年後、週刊文春の鋭い嗅覚が17年前の変死事件を嗅ぎつけた。調べれば調べるほど不思議なことがいっぱい出てくる。これは絶対とくダネ記事になると踏んだスタッフは本格的な調査を積み重ねて、7月から木原事件として記事を連載し始めた。その集大成が13ページに及ぶ8月3日号の記事である。この記事を読めば木原事件の全貌が概ねわかる。

別筋から出てくる様々な情報を加味することで、さらに全体像がはっきりしてくるが、あくまでも木原事件は週刊文春対岸田政権の全面戦争の様相を呈して、真実はどちら側にあるかと国民に問いかけているのが実相であると言える。

政権は安倍政権から菅政権、そして今は岸田政権へと変わった。にもかかわらず、岸田政権は安倍政権を踏襲して、政権と警察が連携しつつ木原事件を無かったものにしようと動いている。政権を維持するためだけの保身に汲々として被害者の立場に身を置くことのできない権力亡者たちに民主主義を語る資格があるはずもない。

欧米諸国に比べて、日本の民主主義は未熟だと長い間思ってきたが、岸田政権が木原事件をなきものとすれば、民主主義の未熟性は固定化されて、政治はさらに腐敗し、国はさらに弱体化するほかはない。

言論の面目を死守し、権力に屈しない週刊文春に限りない敬意と応援を表したい。