沖縄よ! 群星むりぶし日記

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政府が作った状況に屈しざるを得なかった名護市民

昨日実施された名護市長選挙の結果は以下の通り。

投票率68.32%

渡具知武豊(60)19,524票

岸本洋平 (49)14,439票

マスコミによる事前予想では両候補の得票数は僅差になるはずだった。しかし、約5千票差を僅差と呼ぶのには無理がある。非常に残念ではあるが、渡具知氏の大勝と言って良いだろう。

ではなぜこのような結果になったのか、正確な分析が待たれるところだが、好都合なことに、今朝の琉球新報の「識者の見方」という新設コラムに、これ以上は望めないと思われる程、的確に分析した論評が載っているので全文を引用したい。評者は熊本博之明星大教授。

《 名護市長選挙が全国的に注目を集めるのは、普天間飛行場移設問題を抱えるためだ。だがこの問題は市長選の争点になり得ない。

なぜなら名護市民は、建設の是非を決定する権利を政府に奪われているからだ。政府はこれまで、選挙の結果にかかわらず計画を押し進めてきた。選挙期間中、土砂を積んだトラックが市内を走る姿を何度も見かけたが「どちらが勝っても建設は進めますよ」という政府のメッセージだったのだろう。

それでも名護市民は投票に際して、普天間飛行場移設問題について考えざるを得なかった。なぜか。渡具知武豊氏が実績として掲げた子ども医療費、給食費、保育費の無償化の財源は米軍再編交付金で、新基地建設を市長が邪魔しないことが交付の条件だ。

一方の岸本洋平氏は、交付金に頼らずに三つの無償化の継続などさまざまな政策を実現すると公約に掲げ、新基地建設反対の立場を貫いた。名護市民は、建設を止めることを諦めて交付金を受け取るか、止められる可能性は低くても建設を認めず、交付金も受け取らないかのどちらかを選ぶしかなかったのだ。

では、渡具知市政の継続を選んだ市民は、新基地建設を認めたのか。そうではないだろうどちらを選んでも建設は止まらず、自分たちの生活が安定する可能性の高い選択をした市民が多かっただけだ。もちろんその決定は新基地建設を進めることになる。だが「止める」という選択肢がない中で出した市民の決定を、誰が責めることができるだろうか。

そして当たり前のことだが、名護市長選挙は名護市民のものである。ただでさえ自分たちでは決定できない問題に翻弄されているのに、選挙イヤーの幕開けや、県知事選の前哨戦に位置付けされてしまえば、市民は辟易してしまう。投票率が下がった理由の一つなのではないだろうか。》

熊本教授の分析は見事と言う他はない。投票日前の事前調査で、名護市民の62.1%が新基地建設に反対している。しかし、反対を強調する岸本候補ではなく建設を邪魔しないことで基地交付金を受ける渡具知候補に投票した。

これまでもそうであったように、今回も名護市民は苦渋の選択を迫られたのだ。本音は受け入れ反対だが、反対しても建設が進むのであれば、交付金を受け取れる候補を選ぶのが賢明だ。

「止める」という選択肢がない中で出した市民の決定を、誰が責めることができるだろうか。

そう、誰にも名護市民の決定を責める権利などない。その通りだ。しかし、名護市民をここまで追い込んだ政府の横暴を誰かが非難しなければ、一体どこに救いがあるだろうか。

名護市長が反対しようが、県知事が反対しようが政府は有無を言わせず新基地建設工事を強行してきた。まるで辺野古移設に関するいかなる反対も認めないと言っているようなものだ。

中国共産党を彷彿とさせるような政府の強硬姿勢。日本は民主主義国家であるはずなのに、辺野古移設にはその機能が全く働かない。市政、県政と比較して政府はあらゆる面で強大な権力を持つ。全国からかき集めた税金を再配分する権限も政府が持つ特権の一つだ。

その中から、うまいこと米軍(占領軍)基地再編交付金という甘い蜜を搾り出した。米軍(占領軍)基地建設を邪魔する自治体にはこの甘い蜜はあげないよ。反対か賛成か表明しなくても、邪魔さえしなければあげる。

4年前、この仕組みに飛びついた渡具知氏は反対派の稲嶺市長を破って当選した。そして4年間、基地交付金を財源にして子供の医療費、給食費、保育費の無償化を推進した。その恩恵を受けた市民が、反対しても工事を止めることができないなら、と今回の選挙で渡具知氏に投票した。

この屈辱的状況を作ったのは紛れもなく自公連立政権の政府だ。しかし、沖縄の米軍(占領軍)基地問題に対しては中国共産党まがいの強硬策をとる政府だが、幸いなことに、未熟な民主主義の中でも、中国とは違い、まだ我々には言論の自由が保障されている。

この権利を最大限活用して、真実を明らかにするために、行政の理不尽・不条理を指摘する他に、県民が救われる道はない。渡具知氏が選ばれたとはいえ、今でも名護市民の62.1%が移設反対という事実は、一筋の希望である。