住民が意志表示するとき、直接民主制は間接民主制の上位に位置する
辺野古埋め立ての賛否を問う県民投票は、来年2月24日に行われることが決まっている。
しかし、ここにきて議会で反対の議決をしたいくつかの自治体が存在するのも事実だ。石垣市議会、宜野湾市議会、うるま市議会である。
その主な理由は「国防・安全保障に関することに住民投票はそぐわない(石垣市議会)」「普天間飛行場の問題の原点である危険性除去について明記されていない(宜野湾市議会、うるま市議会)」とされているが、その主張には一理あるとしても、今回の県民投票を完全に否定するには説得力に欠けると言わなければならない。
翁長前知事も玉城知事も辺野古新基地建設阻止を公約に掲げて当選した。いずれの選挙も相手候補に大差をつけての圧倒的勝利だった。多くの県民の意思は、辺野古移設反対であることは明らかだった。
ところが安倍内閣は、知事選の争点は辺野古問題だけではない、と言って工事を強行する姿勢を崩さないで今日に至っている。確かに知事選の争点は辺野古問題だけではなかった。経済問題も大きな争点の一つだった。だから、玉城候補も「誇りある豊かさ」を目指す自立型経済政策を繰り返し訴えたのである。
玉城候補は、辺野古問題と経済問題を自らの政策として、真摯な態度で県民に訴え、多くの県民の支持を受けて沖縄県知事に選出されたのである。
にもかかわらず、安倍内閣は、知事選の争点は辺野古問題だけではない、とあえて全体をぼかすような言葉を投げつけてきたのだ。この不誠実な態度は、政府が丸抱えした佐喜真候補が大敗したことへの負け惜しみからでた、単なる辻褄合わせでなくてなんだろうか。実に大人気ない連中だ。
この子供じみた安倍内閣に県民は怒り、それならば直接県民の意思を示す県民投票に測るべきだとする主張が県民の間から出てきたのも自然の勢いというものだろう。
若者が中心となり、県議会の審議に必要な署名数を大きく上回る約10万筆を集めたのも、県民投票の必要性を感じた県民が多い証拠である。
「争点は辺野古問題だけではない」と安倍内閣が言うならば、辺野古埋め立てに賛成か、反対かを直接県民に問う直接民主主義、すなわち県民投票をして安倍内閣に突きつける。
賛成が反対を上回れば、安倍内閣は堂々と工事を進めれば良い。反対が大多数となれば工事を中断し、時間をかけて代替案について県と話し合いを進める。こんなに明快で誠実な民主的手法がどこにあるだろうか。
さて、県民投票に反対決議をする市議会に対する批判文を琉球新報の社説が書いている。
県民投票の正当性を説く、論理的で明快であり、多くの人に読んでもらいたく、全文を掲載させて頂くことにした。匿名だが、熟読に値する名文である。本日の社説氏、恐るべし。
≪ 県民投票予算案否決 自己決定権を奪わないで
住民が投票する権利を市町村議会が奪っていいのだろうか。自己決定権の行使を認めない判断は甚だ疑問だ。名護市辺野古の新基地建設の是非を問う県民投票について、うるま市議会の企画総務常任委員会が投票事務経費約2560万円の予算案を賛成少数で否決した。
県民投票関連の予算案が市町村議会の委員会で否決されたのは初めてだ。他の市町村に波及しないか懸念される。
仮に議会で否決されても、市町村長は専決処分で予算を執行できる。民主主義の原点に立ち返り、首長が良識ある決断を下すよう期待したい。
うるま市議会の委員会採決は賛成3人、反対4人だった。20日の本会議で採決する予定だが、与党会派は議員個々の投票を拘束しない方針のため、採決の行方は流動的だ。
委員会の議論では「普天間の危険性除去はどうなるのか」との反対意見が出た。
普天間飛行場の危険性除去については、党派を問わず異論がない。早期返還は紛れもなく県民の共通認識である。危険性除去は自明の理で、それを踏まえて辺野古移設の是非を判断するのが今回の県民投票である。
普天間飛行場の移設問題は「辺野古」か「普天間」かの二者択一ではない。辺野古新基地が完成しても、八つの返還条件を満たさなければ普天間飛行場は返還されないと、稲田朋美防衛相(当時)が昨年、国会で明言している。辺野古新基地と普天間返還はリンクしていないのだ。
辺野古移設が争点となった県知事選や国政選挙で県民が反対の意思を示しても、政府は「争点は基地問題だけではない」として、新基地建設を強行してきた。
問答無用の安倍政権に対し、単一の争点に絞って明確な民意を示すのは、沖縄の自己決定権を内外に知らしめる上で極めて大きい意義がある。
住民投票は間接民主制の短所を補う直接民主制で、参政権の根幹だ。市民が意思表示する機会を議会が奪うのは民主主義の自殺行為ではないか。
県民投票に反対する意見書を可決するのは議会の意思表明であり、自由だ。しかし、投票の予算案まで否決してしまうのなら民主主義の否定である。権限を乱用してはいけない。市民が意思表明する機会を保障するのが、議会としての大事な務めではないか。
辺野古新基地をやむを得ず容認するのなら、県民投票の際に、説得力ある主張で県民に訴えるべきである。本質の議論を避けて、投票の在り方という入り口論で足踏みするのは良くない。
地方自治法177条によると、議会が予算案を否決した場合、市町村長は再議に付す必要がある。議会が再度経費を削除、減額しても、市町村長は予算を計上、支出できる。
市町村長は住民が投票する権利と機会を奪うことなく、沈着冷静に賢明な判断を下してほしい。≫(琉球新報社説 12月9日)