我那覇真子が日本のジャンヌダルク?
これほど過激な発言をする二十代の女性が、かつて沖縄にいただろうか?
一昨年の9月、スイス国連人権理事会で翁長知事の発言の後で、彼女が反論スピーチをした時は、その度胸の良さ、行動力に驚嘆すると同時に、疑問を感じざるをえなかった。僅か二分間の反対スピーチをするために、わざわざ遠いスイスまで出かけた真意はなんだったのか、という疑問である。
翁長知事の発言が許せない、という動機だけなら、なんとも凄まじい行動力と言わねばならない。安くないはずの旅費は自分で負担したのだろうか、それとも他のだれかに負担してもらったのだろうか、気になるところだ。そして彼女は、「沖縄タイムス・琉球新報を正す県民国民の会」という仰々しい名前の会を立ち上げて、その代表を務めるほどの積極派である。
そのための講演活動も活発にこなしている。チャンネル桜「沖縄の声」のキャスターの一人でもある。そして「日本を守る沖縄の戦い」という本も出していて、その副題は、「日本のジャンヌダルクかく語りき」である。
ベストセラーになっているそうだが、まだ読んでいない。読んでから批判するのが礼儀ではないかと思ったが、色々調べるうちに、彼女の思想の大まかな輪郭を掴むことができたので、購入してまで読むこともあるまいと考え直した。
反翁長知事、反タイムス・新報のキャンペーンをこれほど活発に展開する彼女の発言が、ネット上で、にわか保守層に受けている背景には、中国共産党の我が国に対する安全保障上の脅威があると、まずは指摘しておく必要がある。
尖閣諸島が危ないのに、なぜ翁長知事は中国を非難しないのだ、さては翁長知事は中国共産党のスパイではないか、なぜ辺野古米軍基地建設に反対するのだ、海兵隊が沖縄から撤退すれば、中国を勢いづかせるだけではないか、等々、ネット上で飛び交う多くのコメントの原因が、にわか保守層の我が国の安全保障と沖縄の現状に対する無知にあるのは、明らかだ。
しかし、彼らが主張するように、翁長知事が尖閣問題で中国を非難すれば、たちどころに沖縄から中国人の観光客が来なくなる恐れが多分にある。中国がどんな国か翁長知事は承知の上で、中国と付き合っていることを、にわか保守層の人達は考えたことがあるだろうか?
中国人観光客が落とすお金で、沖縄の経済が多少なりとも潤っている現状を、ご破算にするような態度をとれば、県民がそれを行政の無策として、非難するのは当然のことで、それを承知で、翁長知事は合理的判断で政治を遂行しているに過ぎないのである。
そして、武力発動の権限のない県知事が、尖閣問題で中国を非難した時のリスクを考えてもらいたい。武力衝突の危険を孕む尖閣問題は、政府の専権事項である。
にもかかわらず、政府はどのような態度を取っているか。地元漁船が尖閣諸島から1マイル以内に近づくのを、海上保安庁が実力で阻止しているのである。尖閣諸島は我が国の領土だと、政府自ら主張しているにもかかわらずだ。悲しいかな、これが今の我が日本国政府の実態である。この事実を、いったい、どのくらいの国民が知っているだろうか?
ネット上で我那覇真子を持て囃す、にわか保守層とは、このように軽薄で、うろ覚えの知識の持ち主がほとんどである。彼女には深い思想の裏付けはない。にわか保守層の囃に乗って、嬉々として暴走するあどけない姿に、危険な感じを覚えるのは、ぼくだけではないだろう。
彼女は、2月24日の記者会見で、辛淑玉(シン・スゴ)さんを批判して、次のように語っている。
「日本国内における外国人の政治活動について。高江に常駐する約100名程度の活動家のうち、約30名が在日朝鮮人だと言われている。日本の安全保障にかかわる米軍施設への妨害、撤去を、外国人たる在日朝鮮人が過激に行うことが、果たして認められるものなのか。その実態を現地に入って取材した研究者は、この一連の反対活動を分析し、この運動の背景に北朝鮮指導部の思想が絡んでいるとすれば重大な主権侵害に当たるし、大胆で組織的なスパイ活動とも言えるとしレポートしている。貴女の抗議は、地上波東京MXテレビによって自らの不法行為と虚偽が首都圏から全国に拡散されるのを恐れ、これを阻止する事が目的と断じれる。そのために貴女は、沖縄県を日本の植民地と言い、ありもしない沖縄ヘイトに論理をすり替えた。日本国民である我々沖縄県民が、在日朝鮮人たる貴女に愚弄される謂れがどこにあろうか。我々は、貴女の一連の言動が反日工作につながるものだと解している。北朝鮮による無慈悲な日本人拉致、どう国内における、処刑、強制収容所送り等のすさまじい現在進行中の同朋人権蹂躙に対して、貴女が抗議しない不思議についても問うてみたい。それにしても、外国人の身でこれ程の反日活動を行うとは驚きである。」
あどけない若い女性の、あまりの勇ましい語調に背筋が寒くなって、愕然とするのみである。この発言には、在日朝鮮人に対する差別意識が強烈に滲み出ている。在日朝鮮人が辺野古米軍基地建設に反対して何故悪いのか、その理由がまったく理解できない。辛淑玉(シン・スゴ)さんが、外国籍だからという理由のようだが、それでは、Veterans For Peace の退役軍人の人たちが辺野古に来て反対活動をしたのも、許されない事なのか?
会見の場に同席したケントギルバートは外国人ではないのか?在日朝鮮人はダメで、米国人なら良いのか?
むしろ、ぼくは、世界中の良識派が辺野古に集まって、反対活動を展開してほしいと願っている人間だ。いったい、我那覇真子という人物は、自分を何様だと思っているのだろう。まるで自分は沖縄を代表する人間であるかのような物言いではないか。思い上がるのもいい加減にしろと言いたい。
日本の安全保障について、親米保守の域を出ない若者が、ネット上での軽薄な人気に乗って、自信たっぷりに強硬な主張を繰り返す、その上滑りの強がりの姿勢に危険な匂いがするのだ。
「ニュース女子」はぼくも見たが、例のごとく、本土の言論人が沖縄の問題を論じる時、偏見と誤解に陥るのが常で、その内容は見るに耐えないほどの酷いものであった。
自称軍事漫談家の井上和彦と我那覇真子が、二人揃って海に向かい、「沖縄を返せ〜」と大声で叫ぶ場面があるが、誰に向かって沖縄を返せと言っているのか、意味不明であり、無邪気に笑う我那覇真子のあどけない姿は、滑稽を通り越して、無様であった。
彼女は戦闘的であるのに加えて、なかなか執念深い性格の持ち主のようだ。今月9日は前橋商工会議所会館で、26日は千代田区で講演し、前橋では次のように述べている。
「いつも沖縄県民は取り残されている。基地の問題でも、沖縄の人は誰も文句を言っていないのに、よそからやってきた人たちが割って入ったり情報をゆがめたりして、問題でないものを勝手に問題にしている。」
千代田区では次のように述べている。「辛氏は本来ならば今ごろ、MXテレビに対して勝利宣言をしていたことでしょう。しかし私たち沖縄県民を怒らせてしまった。日頃はおとなしく、穏やかな沖縄県民だが、一度怒ったらタダではすまない。沖縄の米軍基地の問題に在日朝鮮人の辛氏がいちゃもんをつけているのは、日本という国の主体性のなさから来ている」
このように発言する若い女性が、ネット上で持て囃され、親米保守派が彼女を称賛して利用する今の状況を見ると、我々は何が起きても不思議ではない、かつて経験したことのない困難な時代を生きているかもしれないと、暗澹たる気持ちになる。
フランスのジャンヌダルクは異端の判決を受け、火刑に処せられて19歳の若さで生涯を閉じたが、果たして我が日本のジャンヌダルクの運命やいかに。