8月13日付の遠藤誉さんのブログを読んで、つくづく歴史の複雑さを思い知らされた。
遠藤さんは、カイロ会談でルーズベルトと蒋介石の機密会談について書いている。その中で、ルーズベルトは蒋介石に対して、琉球群島をすべて中華民国にあげようと思うがどう思うかと何度も聞いた、という歴史的事実を膨大な資料を解析した結果、そのように記しているのだ。
本文はこちら=https://grici.or.jp/3491
遠藤さんは、その実態を調べるために、(有名な西鋭夫教授のいる)フーバー研究所に通い詰め、蒋介石直筆の日記を読み解き、またアメリカ公文書館、台北国家図書館に行って膨大な資料を解読した。
その結果、次のようなことが分かったという。(要約)
- ルーズベルト「琉球群島は多くの島嶼によって出来上がっている弧形の群島である。日本はかつて不当な手段でこの群島を収奪した。したがって奪取すべきだ。私は、琉球は地理的に貴国に大変近いこと、歴史上貴国と緊密な関係があったことを考慮し、もし貴国が琉球を欲しいと思うなら、貴国にあげて管理を委ねようと思っている」
- 蒋介石「私はこの群島は米中両国で占領し、その後、国際社会が米中両国に管理を委託するというのがいいかと思います」
ルーズベルトは「蒋介石は琉球群島を欲しくないと思っているのだ」と解釈し、そのあとは何も言わなかった。しかし2日後、さらに問う。
- ルーズベルト「貴国はいったい琉球を欲しいのかね、それとも欲しくないのかね。もし欲しいのなら、戦争が終わったら、琉球を貴国にあげようと思うのだがね」
- 、蒋介石「琉球の問題は複雑です。私はやはり、あの考え、つまり米中が共同で管理するのがいいのではないかと...」と曖昧な答え
最後にルーズベルトは「米中両国で共同出兵し、日本を占領してはどうか」と持ちかけたが、蒋介石はやんわりと拒否。
さらに遠藤さんは、米国務省内の公文書館に眠るカイロ密談議事録の中にある、皇室に関する以下のような文章を紹介する。
- 日本の天皇家の地位に関してルーズベルト大統領は、戦後は皇室を消滅させようと思うが、どうかと蒋介石総統に聞いた。蒋介石は「これは日本政府の形の問題なので、日本人自身に任せて終戦後、彼ら(日本人自身)に決めさせればいいのではないかと思う。国際関係における永続的な問題を惹起しないようにした方がいいのでは」と答えた。
以上、肝要なところだけ要約したので、さらに詳しいことは遠藤さんのブログを見て欲しい。それにしても世界で最も裕福で世界最強の軍事力を持つ米国大統領がいかに身勝手な思想の持ち主かと考えるとゾッとする。
ルーズベルトの頭の中には、沖縄(琉球)で暮らす人々のことは全く存在していないのだ。彼の頭の中にあるのは、沖縄(琉球)の地政学的価値のみである。あまりにも冷酷すぎる。
つまるところ、交渉相手が蒋介石でよかったのかも知れない。遠藤さんも触れているが、蒋介石は日本留学の経験があり、陸軍士官学校で学んでいる。ルーズベルトよりずっと知日派であり、それが幸いしたのだろう。
蒋介石がルーズベルトの誘いを拒否したのには、もう一つの理由が考えられる。中国共産党との内戦だ。蒋介石はそのことで頭がいっぱいで、琉球のことなど真剣に考える余裕はなかったのだ。
いずれにしても歴史のベクトルがどの方向に向かうのか、その必然性と偶然性を考えると不思議で仕方ない。
サルトルは、歴史は全体化する全体性であると書いたが、なるほどと思いつつも、ぼくにとって、歴史は依然として深い闇のままだ。