安倍晋三は、はっきり言って総理大臣の器ではなかった。周囲の状況が彼を政治家に押し上げただけ。そして自民党内の特殊な政治力学で総理大臣に選ばれたに過ぎない。
確たる国家理念を持たないから、やるやると言って保守層を喜ばせた憲法改正も、結局のところ９条をそのままにして自衛隊を書き込む条項を新たに付け加えるという歪な形の改正に言及しただけだ。
この一件だけを見ても、安倍がいかに政治家として無能であるかがわかる。安倍は学業も良くなかった。高校時代の安倍の家庭教師を務めたことがある平沢勝栄衆議院議員の証言がある。「当時の安倍君の成績は良くなかった」
勉強が嫌いだったのだろう、大学時代も目立たない存在だった。成蹊大学時代の恩師だった加藤節（たかし）名誉教授が、アエラのインタビューで語っている。
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率直に言って、僕は安倍政権には「負の遺産」しか見つかりません。中でも３つの点で、非常に問題がある政権でした。
１つ目は立憲主義を否定して法的安定性を崩壊させたことです。２０１５年に閣議決定だけで解釈改憲を行い、集団的自衛権を合憲化してしまいました。これは歴代政権で誰もやったことのない暴挙です。
憲法解釈を内閣だけでやるとなれば、何でもできてしまう。内閣法制局長官の首をすげ替えて、解釈改憲を可能にさせたことも前代未聞です。
検察庁法改正案も含めて、司法や検察の人事に内閣が介入し、三権分立の破壊を招いた。政治が最も尊重すべき法的安定性を蔑ろにしたことは重要な失政です。
２つ目は、政権全体に無責任体制が敷衍（ふえん）したこと。政治はあらゆることに結果責任が伴いますが、安倍さんは閣僚の任命責任を一度も取っていません。閣僚が不祥事を起こすたびに「責任を痛感している」と繰り返すだけで、責任を「取る」ことをしない。
財務省公文書改竄事件で近畿財務局の職員が亡くなったことに対しても、麻生太郎財務省、安倍首相ともに全く責任を取る様子はない。こうしたトップの姿勢が政権全体、ひいては官僚組織における無責任体質につながりました。
３つ目は長期政権の病理です。よく「安倍一強」といわれましたが、これは選挙に強く対抗馬がいないというだけです。政府・与党内での政策論争が全くないので、実は政治的には非常に脆弱な政権でした。良し悪しは別としても、本来は派閥間で活発な政策論争をしてきたことが、保守政権の強みでした。
しかし、安倍一強と言われたこの８年弱は、まったく政策論争が行われなかった。そこまで自民党の力が落ちてしまったということです。
政治学を専門としているだけに、加藤氏は安倍政治の本質を的確に捉えている。そして安倍晋三の人間性についても冷めた目で見ている。
ただ、安倍さんは６５歳という年齢の割には、とてもチャイルディッシュ（子供っぽい）だという印象です。
国会での品のないヤジをみると、人間的には未熟に感じます。気持ちを抑えられないのでしょう。すぐに「悪夢のような民主党政権」と言うのも、先ほど述べたように他者批判を自己批判に向けられない人の典型です。
これも子供の所作です。そうした未熟さがあったから、側近たちに、間違った知恵をつけられて信じてしまった部分もあるのかもしれません。コロナ対応における、アベノマスクや自宅で犬とくつろぐ動画配信などは、どう考えても民意を見誤っています。
政権末期は、自分がどう見られているか、国民がそれぞれをどう感じるかという視点が決定的に欠けてしまっていました。これは安倍さんだけではありませんが、２世、３世議員が多くなり、政治家が「家業」になってしまったことも大きな問題です。これでは政治家の資質そのものが落ちて当たり前です。
政治家は国民の命を預かる仕事です。そのためには、歴史書を含めて多くの本を読み、人類の歩み、知恵を学ぶ必要があります。人類の歴史や人間のあり方について高い見識がない人は、本来やってはいけない仕事だと思います。
そういう意味で、安倍さんにはもう少し謙虚に勉強して欲しかった。僕が彼を指導したという自覚はまったくありませんが、僕の授業を聞いていたはずなのだから、もうちょっと知的に自分を鍛えて欲しかったと思います。
いまさら言っても、もう遅いですが（笑）。
現在、菅義偉、石破茂、岸田文雄の３氏が総裁選を争っている。自民党内の特殊な政治力学のおかげで、菅義偉の当選が確実視されている。菅政権誕生は、ほぼ間違いないだろう。
その菅氏は、早々と安倍政治の継承を明言した。少なくとも後１年は悪夢が続くことになる。覚悟を決める必要がありそうだ。
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