沖縄よ! 群星むりぶし日記

沖縄を、日本を、そして掛け替えのない惑星・地球を愛する者として発信していきます。

人の命

姉の見舞いに行くために、軽い準備体操をした。徒歩で行くか、自転車にするか少し迷ったが、久し振りに自転車で行くことに決め、それで念のため軽い準備体操をしたのである。

姉が入院している病院は南風原町にある。徒歩で約45分、自転車だと約12分前後かかる。上り坂が多いので自転車で行くとかなりきつい。しかし快晴でもあり、時間が短縮できるので自転車で行くことにした。

しかし、この選択は間違っていたことがわかる。自宅を出て県道222号線に抜ける急な登り坂を一番軽いギアで登りきった辺りで早くもバテてしまった。いつもより急な疲労を感じた。

それでも識名トンネル入り口の信号までの緩い登り坂を、自転車に乗ったままで上りきった。この無理な頑張りが不幸を招いた。信号を渡りきり、識名トンネルに入った。トンネルの中は暗いので、着脱式のサングラスを上にあげた。いつもより疲労を感じる。出口近くに来ると陽射しが強くなるのでサングラスを下ろした。約560メートルのトンネルを抜けると、いよいよ体の異常を感じるようになった。

真地大橋に入ると、橋の敷石は白色で太陽の光を反射して眩しい。真地大橋も登り坂である。中程まで進んだところで、我慢できず自転車を降りた。視界が混濁してきた。軽い吐き気がする。明らかに異常事態である。自転車を引きトボトボ歩きながら、このまま強い陽射しに晒されたまま転倒するのではないか、と恐怖心に苛まれた。

先を見ると、橋の終わるところに木陰がある。頑張ってそこまで行き休むことにしよう。なんとか木陰にたどり着くと、落ち葉が敷き積もるところに腰を下ろした。木を支える棒に背中を持たせて、眼を閉じる。呼吸が荒くなっている。落ち葉から立ち昇る匂いを嗅ぐ。甘い香りに少し救われた気がする。

車の往来が激しくうるさい音はだるくなった体を攻撃しているような感じがしていたたまれない。眼を開けると視界は完全に白く混濁し、外界がぼやけて揺れている。このままでは危ない、と思い落ち葉が集積するスペースに体全体を合わせるようにくの字型になって横になった。

眼を閉じてじっと体が回復するのを待った。こうなった原因はなんだろうか、と考えた。日頃の運動不足か?暑さが続いたための夏バテが原因か?それとも自分には縁がないと思われた熱中症

あるいは致命的な病気が進行している?一瞬、翁長知事の死が脳裏をよぎった。このまま死ぬかも知れない。行き交う自動車の暴力的な騒音と落ち葉と木陰の優しさを感じながら帽子を枕に、ただただじっと横たわっていた。何分過ぎただろうか、頭の方から人の足音が聞こえた。眼を開けると、ぼくが来た方向と逆方向に歩いて行く一人の男性の背中が見えた。

男性は振り返ってぼくを見ることもなく、そのまま通り過ぎていった。なんと、白く混濁し消えていた視界がクリアになっているではないか!なんとか回復したのだ!

慎重に身体を起こした。三段になったガードレールを利用して上段を両手で握り、両脚を交互に中断に乗せて屈伸運動をした。もう大丈夫だろう。引き返さずに、病院に向かうことにした。それでもまだ自転車に乗ることはできない。用心するに越したことはない。

自転車を引いて歩きながら、南部病院前のバス停のところまできた。ここで自転車を置いて行くことにした。何故なら、そこから数分先の横断歩道から、目的地の博愛病院までは急な上り坂になっているからだ。幸いこの辺りは歩道に樹木が被さって木陰が続いている。自転車が太陽に灼かれないで済む。

盗難防止用の鎖をガードレールに繋いだ。横断歩道の手前にコンビニがある。そこで小休止ついでに水分補給することにした。トイレにも行きたい。店に入ると先にトイレを目指した。お腹の状態がずっとおかしい。

体が少し回復したとはいえ、不幸なことに、このトイレが難所となった。便秘だ。今まで何度も苦しい便秘を経験してきたが、今回は苦しいなんてものではない、生まれて初めて経験する異常なものとなった。

どうしても出てこない。便意はあるのだが、どんなに力んでも出てこない。電気が消える。手を振りかざして人間がいることをセンサーに察知させて再作動させる。ドアをコンコン叩く音がする。間をおいて何度も叩く。子供の声が聞こえる。ドアを叩き返した。

また電気が消える。手を振りかざす。汗が吹き出て来る。時間だけが過ぎて行く。諦めてトイレを出た。150ミリリットルのポカリスエットを買って飲む。少し落ち着いたが、便意は消えない。このままでは急な登り坂を征服する自信がない。再びトイレに入った。

しかし、やはり出てこない。今までの経験を生かして、両手でけつの穴近くの両側を強く押し付けていくら力んでも成功しない。電気が消える、手を振りかざすのを繰り返して絶望的になった時、最後の手段を思いついた。一瞬の閃き。人は絶望に陥った時、最高の知恵が出る。

中指を挿入して掻き回してやれ。挿入すると、指先に硬い丸いものを感じた。しかも2個ある。そのあまりの硬さに驚いた。これでは出たくても出てこれないだろう。指先をぐるぐる回して柔らかくしようとするが、敵もさる者、なかなか上手くいかない。それでもこれ以外に策はないので、ぐるぐる回し続けた。暫くしてからそっと中指を抜いた。トイレットペーパーで丹念に拭う。水洗いするのは後回しだ。すると便意が強くなった。今だ、と思い必死になって全身で力んだ。

出た!ついにやった。俺様を侮った敵もあっぱれ、堂々とした形態をしておる。敗北した敵の背中に石を投げるようなことはしない。別れを惜しんで東シナ海へ流してやった。

一番の功績をあげた中指様を丁寧に洗剤で洗ってやった。残りのポカリスエットを飲み干してからコンビニを出た。気分爽快だ。これで完全復活した感じだ。急な登り坂もなんのその。

姉を見舞った後、下り坂の途中にある沖縄そば店で、沖縄そば(大)を食べた。ここのそばはうまい。帰りはいつもここで食べることにしている。自転車のところまで歩いて行き、そのまま自転車に乗って家路に着いた。行きとは逆に下り坂が続くので快適である。貴重な経験をした1日であった。人間の生死ほど不可解なものはない。やれやれ。